こんにちは。塾予備校部門枚方本校の福山です。
堤中納言物語『このついで』の口語訳&品詞分解です。
作者も編纂者も成立時期も不明な短編物語集です。
『このついで』は香木を焚いているついでに、三人の女房が物語をする話です。長いので3つに分けてご紹介します。ぜひテスト対策にお役立てください。
✿ 本文:太字、現代語訳:赤字 ✿
堤中納言物語『このついで』
春のものとてながめさせ給ふ昼つ方、
春特有のものと言って(中宮が)長雨をぼんやりと眺めていらっしゃる昼のころ、
台盤所なる人々、「宰相中将こそ参り給ふなれ。
台盤所にいる女房たちが、「宰相中将が参上なさるようだわ。
例の御にほひいとしるく。」
いつもの(衣にたきしめた薫き物の)お香りがたいそうはっきりと(薫ってきます)。」
など言ふほどに、ついゐ給ひて、
などと言ううちに、(宰相中将が中宮の御帳台の前に)ひざまずきなさって、
「昨夜より殿に候ひしほどに、やがて御使ひになむ。
「昨夜から父の邸におりましたので、(そこから)そのまま(父上の)お使いとして(参上しました)。
『東の対の紅梅の下に埋ませ給ひし薫き物、
『東の対屋の(庭の)紅梅の下に(中宮様が)お埋めになった薫き物を、
今日のつれづれに試みさせ給へ。』
今日の退屈な折にお試しなさいませ。』
とてなむ。」とて、
と(父上が)申しなさって(お預かりして参りました)。」とおっしゃって、
えならぬ枝に、白銀の壺二つつけ給へり。
何とも言えずすばらしい(紅梅の)枝に、銀製の壺を二つつけていらっしゃる(のを差し出した)。
中納言の君の、御帳のうちに参らせ給ひて、
(女房の)中納言の君が、(受け取って、それを中宮のいる)御帳台の中に差し上げなさって、
御火取あまたして、若き人々やがて試みさせ給ひて、
(中宮がお持ちの)火取香炉をいくつも用いて、若い女房たちにすぐに(この薫き物を)試させなさって、
少しさしのぞかせ給ひて、
(中宮は御帳台から)少し外をおのぞきになって、
御帳のそばの御座にかたはら臥させ給へり。
御帳の傍らの御座所に横におなりになって(おくつろぎになって)いる。
紅梅の織物の御衣に、畳なはりたる御髪の裾ばかり見えたるに、
(中宮は)紅梅の織物のお召し物に、重なり合っている豊かな御髪の裾だけが(御帳の端から)見えていて、
これかれ、そこはかとなき物語、忍びやかにして、しばし候ひ給ふ。
女房たちの幾人かが、とりとめもない話を、ひそひそとして、しばらくお控えなさっている。
中将の君、「この御火取のついでに、
(女房の)中将の君が、「この中宮様の火取香炉のついでに、
あはれと思ひて人の語りしことこそ、
しみじみと感動してある人が語った話が、
思ひ出でられ侍れ。」とのたまへば、
自然と思い出されます。」とおっしゃると、
大人だつ宰相の君、「何事にか侍らむ。
年長らしい(女房の)宰相の君が、「どのような話なのでしょうか。
つれづれにおぼしめされて侍るに、
(中宮様が)退屈に思っていらっしゃいますので、
申させ給へ。」とそそのかせば、
お話し申し上げなさい。」と促すので、
「さらば、つい給はむとすや。」とて、
「それでは、(私に)続けてお話しなさいますか。」と言って、(話し始めた。)
「ある君達に、忍びて通ふ人やありけむ、
「ある姫君に、ひそかに通う男がいたのだろうか、
いとうつくしき児さへ出で来にければ、
とてもかわいらしい子供まで生まれたので、
あはれとは思ひ聞こえながら、きびしき片つ方やありけむ、
(男は姫君を)いとおしくはお思い申し上げるけれども、うるさい本妻がいたのだろうか、
絶え間がちにてあるほどに、思ひも忘れず、
(訪れも)絶え間がちであるうちに、(それでも子供は父のことを)忘れず覚えていて、
いみじう慕ふがうつくしう、時々はある所に渡しなどするをも、
とても慕うのがいじらしく、時折は(男の)住む所に連れて行きなどするのにも、
『今。』なども言はでありしを、
(女は)『今すぐに(子供を返してください)。』などとも言わないでいたのだが、
ほど経て立ち寄りたりしかば、いとさびしげにて、
しばらく間を置いて(男が女のもとに)立ち寄ったところ、とても寂しそうで、
めづらしくや思ひけむ、かきなでつつ見ゐたりしを、
(男は子供の様子を)珍しく思ったのだろうか、頭をかきなでかきなで見ていたけれども、
え立ち止まらぬことありて出づるを、
とどまっていられない用事があって(女の家を)出(ようとす)ると、
ならひにければ、
(子供は男の自邸について行くことに)慣れてしまっていたので、
例のいたう慕ふがあはれにおぼえて、
いつものようにたいそう(男を)慕うのがしみじみとかわいく思われて、
しばし立ち止まりて、『さらば、いざよ。』とて、
しばらく立ち止まって、「それなら、さあいらっしゃいよ。」と言って、
かき抱きて出でけるを、いと心苦しげに見送りて、
(子供を)抱き取って出て行ったのを、(女は)とてもつらそうに見送って、
前なる火取を手まさぐりにして、
前にある火取香炉を手でもてあそんで、
こだにかく あくがれ出でば 薫き物のひとりや いとど思ひこがれむ
(火取の「籠」ではありませんが、)子さえもこのようにあなたを慕って出て行ってしまったなら、薫き物の火取のように、私は一人でいっそう思い焦がれるのでしょうか。
と忍びやかに言ふを、壯風の後ろにて聞きて、
とひっそりと口ずさむのを、(男は)壯風の後ろで聞いて、
いみじうあはれにおぼえければ、児も返して、
このうえもなく心打たれていとおしく感じたので、子供も返して、
そのままになむをられにし。」と。
(自分も)自然とそのままとどまってしまった。」と(言う)。
※ 品詞分解はこちら
→堤中納言物語『このついで』
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